マネー・ヘッタ・チャン著『ヘッテルとフエーテルのみにくいアサヒるの子』(幻冬舎)

本書は、『ヘッテルとフエーテル』(経済界)や『マッチポンプ売りの少女』(あさ出版)など、これまで刺激的な作品を執筆してきたマネー・ヘッタ・チャンの新作である。ちなみにタイトルにある「アサヒる」とは、「事実を捏造して、自分の利益のためにうまく立ち回ること。」(本書帯より)という意味であり、本書ではそうした「アサヒる」人たちを題材とした全7話の物語が描かれている。

これらの物語は童話調の平易な文章で書かれているのだが、そこで展開されているのは身の毛もよだつような恐ろしい話である。しかもどこかで聞いたことのあるような話であるため、思わずハッとされられたり、考えさせられる部分も多い。そしてそれぞれの物語の後にある解説では裏事情やカラクリが明かされており、アサヒる人たちの恐ろしさだけではなく、今まで何の疑問にも思わなかった「常識」や「前提」の中にもアサヒる人たちが恣意的に作ったものがあると教えてくれる。

例えば、アサヒる人たちが作ったものの中に「メタボの診断基準」や「早期発見、早期治療が良いという常識」などがある。こうした前提を自分たちの都合の良いように作り出すことで、本来ならば必要のない薬の処方や治療を多くの人に行うことができ、その結果儲けることができるというわけである。(実に恐ろしい!)

物語はフィクションであるが、いつどこで我々が(本書の主人公たちのように)アサヒる人たちの餌食になるかわからない。本書を読み、アサヒる人たちの手口を知るということは非常に有益であろう。自分の利益のために平気でウソをつき、人の人生を壊す人はどこにでもいるからだ。